新作は出るのか
語学愛好家にはありがたい語学書シリーズであるニューエクスプレスプラスだが、どうやらサンスクリット語が発売されるらしい。
古典言語とは意外だが、これからも新たな言語が発売されるのだろうか。
もし発売があるとしたらどの言葉なのだろうか。
なんとなくウズベク語がいいのではないかと、ここ数年考えていたのだが、それは私自身が中央アジア好きであるという理由が大きい。
しかし、それだけではなくウズベク語の需要が高まりつつあるような気もするので、根拠を探してみることにした。
母語話者数で比較する
語学書の需要があるかどうかという点を判断するにあたり、まず思い浮かぶのは母語話者数の数が多いかどうかということだ。
Wikipediaの英語版に母語話者数のランキングが載っている。
出典はEthnologue (2019, 22nd edition)というところだ。
このランキングではウズベク語が47位に入っている。
話者数は25.1百万人だ。
出典元では"Northern Uzbek"と表記されているが、ウズベキスタン共和国や旧ソ連圏で話されているウズベク語ということだろう。
アフガニスタンにもウズベク語話者が住んでいるが、長い間国境で分断されていたこともあり、若干異なる部分があって別言語としてカウントされていると推測する。
このランキングでウズベク語より上位に入っている言語で、ニューエクスプレスシリーズで未発売の言語は20程度あるのだが、ほとんどが中国語の地方語(客家語など)や、アラビア語のアンミーヤ(口語)、インド亜大陸の言語である。
そのほかに西アフリカの言語(ハウサ語、ヨルバ語、イボ語など)やインドネシアのジャワ語、スンダ語などが並んでいる。
これらはいずれも国家の公用語ではなかったり、公用語となってはいても別の言語がメインで使われたりしている。
こうして考えると一国家の公用語として使用されるウズベク語の存在感が際立つ。
近い順位で未発売なのはアフガニスタンやパキスタンで使われるパシュトゥー語(56位)、ソマリアのソマリ語(62位)などがあるが、政情不安定でなかなか訪問するのは難しい地域の言語だ。
さらに下位にはネパール語(65位)がある。
ネパール語はCDエクスプレスでは発売されていたが、ニューエクスプレスプラスでは復活しないのだろうか。
国家の人口から比較する
次に世界各国の人口ランキングから比較してみることにした。
Wikipediaに頼りすぎな気もするが、こちらではウズベキスタンは40位だ。
とりあえず上位50か国と主要な公用語を並べてみた。
1 中国 (中国語)
2 インド (ヒンディー語)
3 アメリカ(英語)
4 インドネシア (インドネシア語)
5 パキスタン(ウルドゥー語)
6 ブラジル (ポルトガル語)
7 ナイジェリア (英語)
8 バングラデシュ (ベンガル語)
9 ロシア (ロシア語)
10 メキシコ (スペイン語)
11 日本 (日本語)
12 フィリピン (フィリピノ語)
13 エチオピア (アムハラ語)
14 コンゴ民主共和国 (フランス語)
15 エジプト (アラビア語)
16 ベトナム (ベトナム語)
17 イラン (ペルシア語)
18 トルコ (トルコ語)
19 ドイツ (ドイツ語)
20 フランス(フランス語)
21 イギリス (英語)
22 タイ (タイ語)
23 南アフリカ共和国 (英語)
24 タンザニア (スワヒリ語・英語)
25 イタリア (イタリア語)
26 ミャンマー (ビルマ語)
27 韓国(韓国語)
28 コロンビア (スペイン語)
29 ケニア (スワヒリ語・英語)
30 スペイン (スペイン語)
31 アルゼンチン(スペイン語)
32 アルジェリア (アラビア語)
33 スーダン (アラビア語)
34 ウガンダ(スワヒリ語・英語)
35 ウクライナ (ウクライナ語)
36 イラク (アラビア語)
37 カナダ (英語)
38 ポーランド (ポーランド語)
39 モロッコ (アラビア語)
40 ウズベキスタン(ウズベク語)
41 サウジアラビア (アラビア語)
42 ペルー(スペイン語)
43 アフガニスタン (ダリー語・パシュトゥー語)
44 マレーシア (マレー語)
45 アンゴラ (ポルトガル語)
46 ガーナ(英語)
47 モザンビーク (ポルトガル語)
48 イエメン (アラビア語)
49 ネパール (ネパール語)
50 ベネズエラ (スペイン語)
この中でニューエクスプレスシリーズで発売されていないのはウズベク語の他にはアフガニスタンのダリー語、パシュトゥー語だけである。
ちなみに調べていてわかったのだが、アフリカ諸国は民族分布に関係なく国境がひかれたため、ヨーロッパの言語が公用語で、高等教育もアフリカの言語ではなく英語やフランス語などで行われているようだ。
国籍別在留外国人数で比較する
最後に日本にいる外国人の数で比べてみることにした。
いくら国の人口が多くても日本との関りが薄ければ語学書の需要もないものだ。
http://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html
こちらの法務省のサイトから「国籍・地域別 在留資格(在留目的)別 総在留外国人」の最新データ(2020年6月)をダウンロードして多い順に並べてみると、このような順位になった。
1 中国 801,357
2 韓国 436,791
3 ベトナム 427,367
4 フィリピン 292,649
5 ブラジル 211,495
6 ネパール 97,966
7 インドネシア 67,051
8 米国 61,124
9 台湾 60,449
10 タイ 54,999
11 ペルー 48,613
12 インド 40,798
13 ミャンマー 35,060
14 スリランカ 29,517
15 朝鮮 27,695
16 パキスタン 19,156
17 英国 18,317
18 バングラデシュ 17,757
19 カンボジア 16,898
20 フランス 14,046
21 モンゴル 13,601
22 オーストラリア 11,018
23 マレーシア 10,996
24 カナダ 10,949
25 ロシア 10,427
26 ドイツ 7,263
27 トルコ 7,058
28 ボリビア 6,118
29 イタリア 4,695
30 イラン 4,289
31 スペイン 3,722
32 ウズベキスタン 3,686
33 ニュージーランド 3,548
34 アフガニスタン 3,482
35 ナイジェリア 3,439
36 シンガポール 3,168
37 アルゼンチン 3,105
38 メキシコ 2,980
39 ラオス 2,973
40 ガーナ 2,610
41 コロンビア 2,545
42 ルーマニア 2,404
43 エジプト 2,315
44 パラグアイ 2,176
45 ウクライナ 2,075
46 スウェーデン 1,695
47 ポーランド 1,598
48 オランダ 1,458
49 アイルランド 1,285
50 スイス 1,226
ウズベキスタンは32位で、やはり50位以内の国の公用語でニューエクスプレスシリーズ未発売なのはウズベク語とダリー語、パシュトゥー語のみであった。
ダリー語はペルシア語の方言とする場合もあるので、やはり新たな語学書を出すならウズベク語一択ではないか、と改めて思ったのであった。
なぜ発売されていなかったのか
需要がありそうなのに発売されていない要因を挙げるとすると、
1.ウズベキスタンは旧ソ連圏なのでロシア語が通じるため重要度が低い
私も10年以上前に数日間旅行したがロシア語が通じないことはなかった。ただし時代は変化し、ウズベク語の地位は当時よりも上がっている。ロシア語を話さない人も増えていると聞いている。
表記方法が2通りあり、出版する際にどちらにするかという問題が発生する。ただし最近のニュースで2023年1月以降ラテン文字に完全移行するという話があったので、この問題は解消されそうだ。
3.ウズベキスタンと日本の間に往来が少ない
2000年代まではビジネスや旅行でウズベキスタンに行く人はほとんどいなかったはずだ。最近は「青いタイルが映える」とかで人気が出てきて、日本人はビザ免除にもなったようなのでこうした問題も解消済みだろう。
他にも文法書を書く人がいないとか様々な問題がありそうだが、やはりウズベク語の需要は高まっているのではないかということで、今後の発売を期待したいところだ。