ロシア語学習レベルに合った辞書選び
以前、ロシア語初心者向けの教科書について記事を書いたが、今回は辞書の比較をすることにする。
じっくり外国語を学習しようとするとなれば辞書は絶対に必要だ。
だが、安い買い物ではないので間違いのないものを選びたい。
ロシア語を学習してきた経験から、それぞれの辞書の特長を踏まえて市販されている主な辞書を紹介してみたい。
入手可能な辞書を比較
ロシア語の学習者が増えているようだが、まだまだ入手可能な辞書の数は両手で数えられる程度しかない。
学習者のニーズがはっきりしていれば迷うこともないだろう。
①博友社ロシア語辞典(1995年)
まずはこちらのピンク色のケースの一冊。
実は私は大学の第二外国語を選択した際に購入した辞書だ。
そこそこ分厚くて、収録語彙数も約5万語と初級・中級レベルなら問題ないボリュームだ。
巻末には和露辞典もおまけ程度についている。
もう十数年使っているが、用例なども豊富で不便を感じたことはあまりない。
字も大きすぎず小さすぎず、「普通の」辞書といった感じ。
② プログレッシブ ロシア語辞典(2015年)
ややコンパクトな印象がある辞書。
しかし、内容的には約6万語のロシア語が収録され、約1万語の和露辞典もついていてボリューム的には中級レベルでも全然問題ない。
ソ連崩壊前後に出版された辞書が多い中で、本書は2015年出版と新しいのが特長。
比較的新しい語彙も収録されているので、現代ロシアに興味がある人に向いている(ドストエフスキーとかプーシキンとか読むなら新しい必要はないが)。
難点は文字が小さいこと、装丁が安っぽいことくらいか。
③ パスポート初級露和辞典(1994年)
わざわざ「初級」と書名に盛り込んでいるように、収録語彙も約7,000語と明らかに初心者向けだ。
その分、文字は大きめで非常に読みやすい。
辞書としては値段もお手頃で「最初の1冊」として買うのもいいかもしれない。
老眼が気になる年配の方でこれからロシア語を始める人向け。
④ 研究社露和辞典(1988年)
書店で入手できる最強の辞書。
なんと約26万語収録と他の辞書を圧倒している。
それなのにケースには「携帯版」などという文字が記載されている。
私も目を疑ったが、その理由は「机上版」というものも存在していたからだ。
「机上版」を図書館で見てきたところ、あまり家庭にはないような持ち運びに適さないビッグサイズだった。
対照的に「携帯版」は収録語彙数が半分未満の辞書よりもほんの少しだけ大きいといった印象。
「机上版」と「携帯版」の内容は全く同じで、簡単に言うと「携帯版」とは縮小コピーしたものだ。
というわけでご想像の通り、現在市販されている「携帯版」は極めて文字が小さい。
小さい文字でも我慢できる、絶対に上級レベルまで到達するのだ、という鉄の意志があれば購入してもいいかもしれない。
⑤ 岩波 ロシア語辞典(1992年)
最近店頭で見ることは少ないがamazonではまだ入手できるようだ。
プログレッシブや研究社のものよりは文字が大きくて、通常の使用には問題ない。
収録語彙数も約13万語と充実している。
しっかり学習していきたいという人には向いていると思う。
難点はやや高価であること(税込で約9,000円以上)。
岩波書店のホームページでは「在庫僅少」となっている(2019年7月18日現在)ので、欲しい人は今のうちに入手しておいた方がいいかもしれない。
⑥ コンサイス露和辞典(2003年)
比較的新しい辞書で、収録語彙も10万6千語と申し分ない。
俗語や隠語なども載っているので、そっちの方面が好きな人はこれで決まりではないだろうか。
用例が物足りない気もするが、値段もお手頃なのでとりあえずの1冊としてもいいかもしれない。
⑦ロシア語ミニ辞典(1997年)
約1万8千語収録の薄くて携帯に便利な一冊。
旅行や超短期留学に適している。
ただしあくまでも初級レベル。
用例もほとんど載っていないので、ロシア語を長く勉強していると物足りなく感じることが多い。
サイズ以外に長所を挙げるならば、「項目別語彙集」がついていて、「交通」とか「スポーツ」などと特定の分野の語彙がまとめて記載されているページがあり、まとめて学習できるという点。
- 作者: 安藤厚,栗原成郎,藤家壮一,望月恒子,大西郁夫,灰谷慶三,松井俊和,タチアーナヴラーソワ
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1997/04/01
- メディア: 新書
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⑧ロシヤ語小辞典(1964年)
実物を見たことがないので何とも言えないが、愛用者はそこそこいるようだ。
古い辞書なのが気になるところだが、収録語彙は約2万5千語とコンパクトな辞典の割に充実しているようだ。
私の愛するロシヤ語四週間の著者が編集した辞書らしい。
本屋で実物を確認したらなんとも不思議な辞書であった。
理由は後述。
⑨ デイリー日露英・露日英辞典(2008年)
これは辞典の外見をしているが、中身はただの単語集である。
辞書と比較するのは適切ではない。
単語集と比較すべき一冊だろう。
本書を買ってしまってロシア語を本格的に学習しようという方は、間違いなく別の辞書を買うことになるだろう。
英語を含めて3か国語で比較したい人は買ってもいいかもしれないが、それほど便利でもない。
不完了体と完了体
ロシア語の辞書選びの際に留意すべき点がある。
ロシア語の動詞には完了体と不完了体という2つの形があり、一定の動作が完結した様子を完了体で、反復的な動作や現在進行中の動作を不完了体で表すようになっている。
例えば、「書く」は完了体で"написать"、不完了体で"писать"となる。
ある辞書では"написать"という単語を引くと意味が書いてあるが、別の辞書では"писать"を参照するような指示がされるだけで、あらためて"писать"を引かないと意味が分からない仕組みになっている。
逆に"написать"の項目に意味が記載されている辞書は"писать"を引くと"написать"を参照するような指示が書いてあるという具合だ。
要するにロシア語の辞書は完了体で引く辞書と不完了体で引く辞書があるというわけだ。
紹介した辞書のうち、①~③は不完了体、④~⑦は完了体で引く辞書である。
どちらがいいかは好みの問題なのでなんとも言えないが、長く不完了体の辞書を使っていると完了体の辞書を使ったときに違和感を感じる(逆もまた同じだろう)。
そんなこともあるので辞書を買い換える時には頭に入れておきたい。
ちなみに⑧は単語によって完了体で載っていたり、不完了体で載っていたりするのでどういう原則で編集されているのかわからなかった。
まとめ(個人的な見解)
結局のところ、語彙数が少なければ初級、多ければ上級ということになろうかと思う。
おおよその語彙数と税抜価格をまとめたのが以下の表だ。
収録語彙が多い順に並べてみた。
タイトル | 税抜価格 | 語彙 |
④研究社露和辞典 | 7,800 | 260,000 |
⑤岩波 ロシア語辞典 | 8,400 | 130,000 |
⑥コンサイス露和辞典 | 4,000 | 106,000 |
②プログレッシブ ロシア語辞典 | 4,500 | 60,000 |
①博友社ロシア語辞典 | 5,825 | 50,000 |
⑧ロシヤ語小辞典 | 3,200 | 25,000 |
⑦ロシア語ミニ辞典 | 3,400 | 18,000 |
③パスポート初級露和辞典 | 2,900 | 7,000 |
④と②はコスパが良さそうだが字が小さいので、金銭的な余裕があるなら⑤か①の方をおすすめしたい。
用例が豊富でより深く学習することができるだろう。
持ち歩く機会が多いならば、⑥もいいかもしれない。
④は帯に「携帯版」と書いてあるが、持ち歩くのには大きすぎるだろう。
ただし、内容は入手できる辞書の中では最も充実しているので上級者やマニアには必須の辞書だ。
ロシア語を軽く体験してみたい、初級くらいまででいい、という人は⑦と③あたりで十分だろう。
自分がこれからロシア語をはじめて、ある程度のレベル(中級~上級くらい)まで到達したいと考えていたなら ⑤岩波 ロシア語辞典を買うと思う。
私の好みとしては⑤・①・⑥の順だ。
最後に一言、辞書は長く使うものなので、皆さんが購入するときは書店や図書館で実物をみて選ぶことをおすすめしたい。
【2021.9.5追記】
ついに研究社露和辞典を入手した。
やはり他とはレベルが違う。入手できるならこれが一番かもしれない。