初心者にはどの本が最適なのか
ロシア語をはじめて学ぼうとする人にどの教科書をおすすめしたらいいか。
そういう観点で自宅にある学習書をあらためて読み返してみたり、本屋や図書館に行って自分が持っていない入門書で何か良さそうなものはないかと探してみることにした。
ちなみに私はロシア語に初めて触れてから15年以上経過したが、長期間学習を中断したりした影響で、入門者レベルの時間が非常に長かった。
最近は割と集中して勉強しているので文法などは理解しているつもりだが、覚えるのに苦労した部分がいくつもあった。
そういった自分の経験を踏まえて、現在入手できそうな入門書を紹介したい。
入門書比較
ややマイナー(?)言語であるロシア語の入門書は数が限られてはいるが、選択の余地がないという程のレベルではない。
独学という観点からみれば恵まれている言語だろう。
単語やリスニングなどに特化した書籍もあるが、ここでははじめて学習する人が総合的に学べる(ように見えるだけのものもある)書籍に限定して紹介する。
また、ロシア語は発音がやや難しいので、今回はCDが付いている教材のみを対象とした。
① CD BOOK はじめてのロシア語(明日香出版社)
この本は私がロシア語をはじめようと思ったときに買った本だ。
しかし、本格的に学習しようとする方にはおすすめしない。
なぜならこの本は、文法などの説明が非常に少ないからだ。
そもそも著者は元商社マンで、言語学者やロシア語講師ではない。
内容も挨拶などよく使われる表現や、文字の説明など基本的なものだけだ。
練習問題もないので、応用力もつかないだろう。
ただし、ちょっと旅行に行くとか、たまにロシア語話者と交流する機会があるなど、少しだけロシア語をかじってみたいという人であればこの本を選んでもいいだろう。
② CDブック はじめてのロシア語(ナツメ社)
この本は持っていないが、図書館で読む限り2色刷りの見やすい本という印象だ。
全40課で構成されていて、ロシア語のテキストは最後の課までご丁寧にルビが振られている。
基本的な文法は解説されているが、40課まである割には詳細ではない。
数字も2000までしか載っていないので、語学に自信のない方向けだろう。
練習問題もないので、ストイックな学習者にはおすすめしない。
第2外国語でロシア語を選択した学生が大学で使用しているテキストだけではわからない、という場合に本書を参考にすると理解が深まるのかもしれない。
しかし到達できるレベルはかなり限定的だろう。
③ ゼロから始めるロシア語(長野俊一)
この本は全23課で構成されている。
テキストはシンプルで、文字は大きめだ。
文法は丁寧に解説しているが、使われている単語が非常に少ないので、語彙力を伸ばすのには向いていない。
基本的な部分は押さえているので、慣れるための一冊としてはまずまずだろう。
練習問題も12回あるので、少なくとも②よりはおすすめできる。
④ 世界の言語シリーズ5 ロシア語(大阪大学出版会)
ロシア語 (世界の言語シリーズ5)[CD付] (大阪大学世界言語研究センター 世界の言語シリーズ)
- 作者: 上原順一
- 出版社/メーカー: 大阪大学出版会
- 発売日: 2012/04/06
- メディア: 単行本
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この本は詳しい文法説明が特徴だ。
しかしまったくの初心者には厳しすぎるかもしれない。
はじめから終わりまで一貫してロシア語の文章にルビが振られていない、いかにも非営利団体が作ったような無機質なデザイン。
挿絵もないし、黒の一色刷りなのでポップな要素は全くない。
自分が初心者ならきっと挫折すると思った。
やる気があって、ロシア語を少し勉強したことがある人にはおすすめできるかもしれない。
内容はしっかりしているので悪くはない、ただし真面目な人向けという印象。
⑤ 総合ロシア語入門(研究者)
持ってはいないが、何度か書店で購入を検討したことがある本だ。
文法も詳しく説明されていて、テキストも終盤は1ページ以上の長文が載っているなど、最後までやり遂げたら相当な力が付くと感じた。
難点は少し練習問題が少ないところか。
巻末に単語集や変化一覧表もついているので、これ一冊で到達できるレベルはかなり高いだろう。
しかし、難易度も高そうなのでまったくの初心者には厳しいかもしれない。
⑥ ニューエクスプレスプラス ロシア語(白水社)
ニューエクスプレスは白水社の語学シリーズもので、ロシア語に限らず全20課で2課に1つのペースで練習問題が設けられている。
数々のエッセイなどを書いている黒田先生の著書で、他の語学書よりも堅苦しさがない。
テキストはダイアログ形式で、10課まではルビが振られている。
ロシア語の基礎的な文法を網羅しているわけではなく、これ一冊で到達できるレベルは限定的だが、楽しく学習するという意味では十分おすすめできる。
⑦ 初級ロシア語20課(白水社)
これはニューエクスプレスシリーズの前身である「CDエクスプレス ロシア語」として出版されていたのを、タイトルを変えて発売しているものだ。
構成はニューエクスプレスシリーズと同様に全20課、10の練習問題がついている。
私は「CDエクスプレス ロシア語」の時に購入して、すべてやり遂げた。
別の学習書を使っている人でも、基礎的な文法の復習として役に立つだろう。
もちろん初心者でも問題ない。
ただし、今はニューエクスプレスが出ているのでわざわざこちらを先に購入する必要もない気がする。
個人的には復習・確認のための練習用テキストとして使うことをおすすめする。
到達できるレベルも⑥とほぼ同じ。
⑧ 大学のロシア語1 基礎力養成テキスト
しっかりと基礎を固めたい人向けの教科書。
全28課で、巻末には単語集や変化表もついている。
文法の説明は非常に丁寧で、練習問題もまずまず。
ただし、あまり長いロシア語のテキストはないので、読解力養成には難あり。
授業で使うことを想定したようにも見える。
続編の「大学のロシア語2 実力が身に着くワークブック」はより独学する人には向いていない気がする。
しっかりやれば基礎的な文法はマスターできるので、じっくりやりたい人向け。
ただし、この本で始めるなら、慣れてきたころに読解用にも別の本を買った方がいいだろう。
⑨ NHK CDブック 新ロシア語入門(NHK出版)
少し古い本だが、本格的に勉強しようと思う人にはこの本をおすすめしたい。
全50課で、各課にある短いテキストから文法を学んでいくという構成。
練習問題も十分な量があり、単語集や文法表も巻末に詳しく載っているので、一冊でかなり高いレベルに到達できるのが特長だ。
50課の後にも簡単な読み物がついているので、「このくらいのテキストが読めるようになる」という目標ができていいのではないか。
私自身も、主にこの本でロシア語を学習し、ロシア語能力検定試験3級に合格することができた。
今でも困ったときはこの本で文法を確認することも多い、私にとってとても便利な本である。
いろいろな学習書を買うよりもこれ一冊を徹底的にやれば相当な力がつくはずだ。
個人的な思い入れがあるのも事実だが、総合的に学習したい人には最もおすすめできる一冊だ。
⑩ 標準ロシア語入門 (白水社)
こちらも古い本だが、内容は⑨同様しっかりしている。
⑨と比べて巻末に単語集がない、文法表があっさりしているという点では物足りなさを感じるが、本編の内容は充実している。
全43課あるが、どの課でも短い例文が豊富に書かれていて、どれもすぐに会話で使えそうなものだ。
文法と実践的なフレーズがバランスよく学べるのがこの本の特長だろう。
全部暗唱してしまえば、自然と単語も文法も覚えてしまうだろうから、巻末の付録は少なめでいい、という考え方なのだろうか。
これ一冊完璧にやり遂げ、そして暗唱できたならば⑨をやるよりも圧倒的に実践力がついているはずだ。
結局どれを選べばいいのか
10冊の入門書を見てみたが、はじめの一冊をどの入門書にするかは学習者の意欲に応じて選ぶべきだろう。
少しロシア語に触れてみたいという程度なら①で十分だし、試しに文法も少し知りたいなら⑥がいいかもしれない。
あまり語学に慣れていない人、老眼が気になる人は③か。
本格的にやりたい人、長く続けたい人には⑨、⑩あたりがいいだろう。
以上はあくまで個人的な意見なので、実際に書店や図書館で実物を見て購入することをおすすめする。
また、今回紹介したのは私の行動範囲内で実物を確認できた「ロシア語の入門書」っぽいものだけで、他にも販売されている入門書があるかもしれない。
ちなみに「ロシア語レッスン初級〈1〉 (マルチリンガルライブラリー)」(スリーエーネットワーク)という書籍もあったが、2冊に分冊されていて、両方買うと結構高いので紹介しなかった。
語学は目的意識によって上達度合いが違ってくるのでテキスト選びは非常に重要だ。
この記事がみなさんの学習の参考になればと願っている。
【2018年9月5日追記】
この記事を書いた後に、書店で別の本を見つけた。
それがこの「カラー版 CD付 ロシア語が面白いほど身に着く本」だ。
「入門の入門シリーズ」というだけあってあまり深いところまでは学ぶことができないが、非常に見やすい構成になっていて、かつ安価(税抜1,500円)なので、ロシア語を「さわり」だけやりたい本当の初心者にはおすすめできそうだ。
①よりは価格的にも読みやすさ的にもいいと思う。
これ読んで、もっと勉強したくなったら⑨か⑩買うのが「英語以外の語学初心者」にはいいかもしれない。
カラー版 CD付 ロシア語が面白いほど身につく本 (語学●入門の入門シリーズ)
- 作者: 中野久夫,オレグ・ヴィソーチン
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/中経出版
- 発売日: 2011/06/28
- メディア: 単行本
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余談になるが「旧ソ連」や「共産主義」の愛好者にピッタリの書籍があることを紹介したい。
それは「ロシヤ語四週間」だ。
CDもついていないので入門者には全くおすすめできないし、タイトル通り4週間ではやり遂げられる可能性も非常に低いが、愛すべき書籍である。